アイドルマスターゼノグラシア 最後の日 「いよいよ最後の決戦ね。皆覚悟はいい?」 伊織が震える声で言った。頼れるリーダーではあるが、 いよいよ最後の敵を前にして、心なしか落ち着かない様子。 思えば、ここにたどり着くまでにいろいろな事がありすぎた。 今残っているメンバーと心から分かり合える日が来るのかと 最初は思っていたのも事実だった。 「アイドルマスター」になるということから集まった9人。 それぞれの個性は時にぶつかりあい、時に励ましあってきた。 巨悪と戦う為といえば聞こえはいいが、実際に戦闘にあって常に 思ってきた「なぜ自分達が・・・」という疑問。 それも、この戦いで終わる。 「早いものね。私達が出会って1年ちょいかしら」 伊織からの通信に春香は驚いた。彼女から連絡してきたのは、それこそ1年過ぎて 初めての事だったから。 「どうしたのよ伊織?緊張してるの?」 素直に驚きを伝えた。まあ、この位彼女には大丈夫だろう。 「誰が緊張してるってのよ?アンタ達を心配してるんでしょう。 今日はドジしないでよね春香!」 「大丈夫よ。今日は私も機体も絶好調なんだから」春香は元気一杯に応えた。 「・・・・それが余計に心配なのよ・・・」皮肉をこめた声で伊織が言う。 少し明るい雰囲気になったか? 「大丈夫だったら!」 春香もすぐに挑発には乗るタイプだ。 伊織の皮肉にすばやく反応。言ってる側からグラッと機体が揺れて転びそうになった のは決して伊織に言うまい。 「・・・・あのぅ・・・・こっちであってるんでしょうか・・・」 雪歩が自信のなさそうな声で通信に入ってきた。 「多分・・・・大丈夫よ。敵は一番奥にいるって決まってるんだから!」 「大丈夫よー雪歩。そんなビクビクしなくてもまだ何も出てこないから」 二人はこともなげに言ったその時、上から、壁が落ちてきた。 「危ない!!伊織よけて!」 すばやく伊織は反応。雪歩がすくんでいるのか動けない。 落ちてくる壁を春香の機体が抑える。 「春香!」 「春香ちゃん!」 壁は対侵入者よう迎撃システムらしい。ありがちと言えばありがちだが、 ミシミシと音を立てて春香の機体がきしんでいる。 「わ、私がここを抑えるから、二人で先に行って。他の皆もすぐに 合流すると思うから」 「何言ってるのよ春香!三人で行くって決めたでしょう?」 「でも、ね・・・ダメみたいなの。早く、二人で行って。伊織、雪歩を連れて行って」 「春香!!」 「春香・・・・それでいいの?」 壁がゆっくりと持ち上がる。見慣れた機体。青い色は彼女の印。 「ち、千早ちゃん・・・・・」雪歩が泣きながらつぶやいた。 「春香にだけいい格好なんかさせません」微笑を湛えながら千早が言う。 「あ、ありがとう千早。もう、ダメかと思ってた」春香は苦笑い。 しかし、状況は一向によくならない。一体で抑えられなかったからといって二体で どうにかなるものでもない。 「私たちなら大丈夫。さあ、雪歩も早く」千早が冷静な声で言うと雪歩もようやく ゆるゆると伊織のもとにいった。 「なんでアンタがここにいるのよ?先に行ったんじゃないの?」 「ふふふ、戻ってきちゃいけなかった?」 「いいからなんとかしなさいよ。アンタなら簡単にできるでしょ千早?」 「・・・・・くっ」 「千早?どうしたの?」 春香の機体が再びアラームを発する。やはり、荷重負担は二機でもどうにもならない。 千早の機体にも負荷がかかりすぎたらしい。 「大丈夫だから、伊織、雪歩を連れて早く、先に・・・」 千早はあくまでも冷静に伊織に指示を出す。しかし伊織は動けない。 「なんとかしなさいよ、アンタ達が来なかったら私・・・私・・・」 ブゥゥンと低い音がして、壁の下にもう一つの機体が現れた。 「亜美!!!」 一斉に全員の声が上がった。亜美機が千早機の隣にいる。 「はるるん、大丈夫?ゆきぴょんの大変だー!って信号見たからソッコーで来たよ!」 亜美の明るい声がコンパネに響いた。 「亜美まで来たの・・・。無理だよ・・・、もう私の機体も千早のも動けない・・・」 一際大きな振動がして、壁が大きく動いた。もう一機、機体が現れたらしい。 これまた見慣れた黒い機体。いつも、私たちと共に戦ったあの機体・・・ 「ここまで来たのに、あきらめちゃうのは春香らしくないな。ボク達はいつも あきらめなかっただろ?」 「真!!私が行くって言ったのにアナタまで来ちゃダメじゃない!」 と千早。二人で先に行っているはずだったのだ。 「へへー、それでこんな所で立ち往生してちゃダメだよね?」 真はいたずらっ子のような笑みを浮かべている。 「二機じゃダメでも、ボク達が四人も揃えば大丈夫。やってみる価値はある!」 せーの、という掛け声で全員が一斉に上方に向かって力を入れると、壁は跳ね上がった。 また落ちてくるまでに時間がある。春香もなんとか抜け出して、トラップを抜けた。 「ホラ、待ってて正解だったでしょ?」 と伊織は満面の笑みで春香を迎えた。目には一筋の涙が見えたとか見えないとか。 決戦まで、あとわずか。しかし、このメンバーなら、きっと勝てると春香は確信 していた。 おしまい。