「インベル・・・ボクじゃなくて、なんであんな新入りなんかに・・・」 拳をもう片方の手に打ちつける。 「ボクじゃ・・・ダメなのかな・・・」 真は普段冷静を装っているが、常によぎる不安を隠しているだけなのだ。 最古参である自分がエースである自覚はあるが、他のマスターが自分の座を狙っている。 千早は、対抗組織に行ってしまった。 頼れるのは自分しかいない。真は訓練にあけくれ、次第に口を閉ざし 人に対しても壁を作るようになっていった。 天才であるがゆえの孤高とでもいうのか。 「天才、なんかじゃないのにな」 ため息とともに呟いた。誰も自分を分かってくれる人がいない事がこんなにも 孤独だとは思わなかった。 もうすぐ寮が見える、ボクは、また、エースのキクチマコトにならなければならない。 何故だかあゆみが遅くなる。壁の上に猫がいた。 「あ・・・」 目があった。 足を止め、指を出してやる。 飼い猫なのか顔を寄せてなついてくる猫。 ふふっと微笑する。 「どうした・・・?」 猫はゴロゴロと喉を鳴らす。喉の辺りを触ってやると嬉しそうだ。 その様子を見て真は心がやすらいでいった。 大丈夫。ボクはまだ大丈夫だ。 こうやってまだ猫と戯れる事だってできる。 心は凍り付いていない。ロボットにまで感情移入はできないが、動物とかには 愛情を注ぐ事ができる。うん、大丈夫だ。 少し気を張りすぎたのかも知れない。 ボクはボクだ。変わる必要なんて、ない。 改めて思う。 新入りはなんと言ったっけ。天海春香とか言っていたな。 まだ操縦の仕方も何もしらない彼女にボクが抜かれるはず、ないじゃないか。 「大丈夫、だよね?」猫に問いかける。 猫はすっかり気持ちよくなったのか壁で香箱座りをして真に撫でられるままになっている。 クアーとあくびをする猫の頭をポンっと叩いて真は歩き始めた。 その顔には再び自信の光が満ちている。 まだ先は長い。ボクはボクのやれる事をやろう。 空には、コンペイトウの帯があたたかく見守っていた。